少女の理想 / daydream



「あー、もう頭に来るわ!!」

 ほんとにもうあの頑固親ときたら……。
 せっかくの良い気分が一瞬で台無しになってしまった。
 それもこれも全部あの格闘バカのせいだ。
 まったく……なんでこんな家に生まれちゃったんだろう……。
 ぶらぶらと街を彷徨いながら、頭の中であの頑固なバカ親に罵声を叩きつけていく。

「ほんとにさいてい……」

 口に出すと父さんの顔が浮かんで、またむかついてしまった。
 悪循環だ。
 せっかく逃げ出して、気分転換でもと思ったのに、こんなんじゃ全然意味がない。
 はぁ……。いっそ根性なしの軟派野郎とか、変な騒動でも起こってればストレス発散出来るのに……。
 
「って、いけないいけない」

 こういう考えはしちゃいけない。
 恋に夢見る可憐な乙女、秋雨様ともあろう者が、そんな暴力的な想像なんて……。
 自分で自分を戒める。
 常日頃からちゃんとしておかないと、せっかくのチャンスを見逃してしまうかもしれない。
 そう、あたしは素敵な出会いをして、素敵な恋をして……その可愛いお嫁さんになるんだから。
 その為に、頑張ってお母さんから家事全般完璧にマスターしたのに……使う相手がいないのが何とも悲しい。
 まあ、少し小振りな胸は成長に期待するにしても、容姿端麗、才色兼備、品行方正なあたしの何処に問題が……はぁ。
 あー、もうそれもこれも父さんがいきなり見合いなんて言い出すから!!
 あたしはそんなの真っ平ごめんなのに……ったく。
 あたしの為とか言いながら、あたしのことなんて全然考えてないんだから嫌になっちゃう!!

「…………はぁ」

 なんか駄目。
 全然話になんないわ……。
 そうよ。
 こうして無目的にふらふらしているのがいけないんだわ。
 そうと決まれば……。
 あっ、はっけーんっ!

「おばちゃーん、こんちはー♪」

 ここはあたしの行き付けのお店。
 おばちゃんはいい人だし、豚まんは美味し。
 だから、週に三度は来てるかな。

「おや、雨ちゃん。こんな時間に、今日はどうしたの?」

 あっ。
 いつもなら、この時間は道場で練習中だ。
 こんな時間に来ることなかったっけ。
 けど、事情は話したくないし……。

「んー、ちょっとねーー」

 苦笑いで誤魔化しておく。
 まあ、おばちゃん相手で、ごまかせるとも思わないけど……。

「はいはい。で、今日は何にするの?」

「んーーーっと、豚まん♪」

 何も聞かないおばちゃんの気遣いがちょっと嬉しい。
 まあ、聞かれたからって話せないんだけど……。

「はいはい。……っと、熱いから気をつけるんだよ」

「うん。ありがと。……はい」

 いつも通り温かい。
 うん。こうして持ってるだけでも少し楽になる。
 温かいからか、おばちゃんと少しでも話をしたかわからないけど、うん。
 やっぱり来て良かった。

「毎度あり。また来ておくれ」

「わかった。じゃ、また今度」

 豚まん片手にふらふらと街を歩く。
 少し落ち着いてみると、いつもと変わらない。
 良い感じだ。

「さて」

 歩きながら食べるのはお行儀が悪いけど……ま、いいか。
 がぶっといくのが美味しいんだけど、熱いから気をつけて、っと。

「はむっ。…………うわちちっ!!」

 はふはふっ。
 うー、いつもやってるのに失敗しちゃうとは情けない。
 やっぱり熱い。

「けど、おいしー。んー、しあわせ♪」

 やっぱりおばちゃんの所の豚まんが一番。
 お腹もふくれたし、さっきまでのイライラとした気分は何処かに行ってしまった。
 やっぱり考えすぎのは良くなかったんだ。
 父さんになんと言われても、あたしはあたし。
 素敵な恋に出会うまで絶対に諦めたりしないんだから。

「よし、元気出していこう♪」

 声を出して自分を応援。
 素敵な人に出会う為にも。